アンドレイ・タルコフスキー

アンドレイ・タルコフスキー

アンドレイ・タルコフスキーの映画は、他の何ものにも置き換えることができない唯一の存在だと感じます。どの映画も静かに心の中に入り込み、やがて深い思いを導いていきます。アンドレイ・タルコフスキーは、何を考え、どんな思いでこうした映画を作っていったのでしょうか。

ユング派の精神療法の一つに、箱庭療法がある。人形や玩具のような小道具を使い、砂箱の中にミニチュアの庭を製作し、心理状態の分析に用いれられる。また、製作者に対しては、自分を認め、心を開放させていく効果もあるとされている。普段「言葉」の世界に慣れ親しんでいる私たちは、心との対話のために、「言葉」を排し、全ての感覚を動員するこのような方法を手がかりとしている。

「言葉ありき」で始まる世界は、確かに物事を明確に語ってくれる。しかし、「言葉」の生まれる以前の混沌を、人は心の深い部分で内包していることも、確かなことだろう。

アンドレイ・タルコフスキーの「ノスタルジア」は箱庭である。

ロシアの詩人ゴルチャコフは、イタリアのトスカーナを旅しながら、祖国ロシアへの望郷の思いのために自殺してしまった18世紀の作曲家マクシム・ベリョゾフスキーについて調べている。その旅は、やがて彼自身の故郷への思い/自分探しの旅と重なりあっていく。この作品の完成後、亡命することになるアンドレイ・タルコフスキーは、故郷に対する複雑な思いを、「言葉」を排し、映像という手法で描こうとしている。人は異郷の地を訪ね、自分を探しはじめる。しかし、求めるものはそこにはなく、心は故郷へと引かれていく。この故郷は、現存するものではない。自分の記憶の中に眠っている原郷というべきもので、止めておくことさえできない儚い存在...それこそ「言葉」を排した箱庭の中の存在だろう。

「家」のことを英語で「home」というが、「home」は、「本拠地」や「故郷/原郷」といった意味もあわせ持つ。「家」をつくるということは、原郷をつくり、その土地を原郷として認めることなのだろう。「家」は、自分の原点であり、自分探しの帰結点でもある。普段の私たちは、そのことを忘れがちだが、「家」をこうした視点から眺めてみた時、建築という手法に、様々な可能性が広がっていることに気づかされる。  アンドレイ・タルコフスキーの「ノスタルジア」は、そんな思いを持つ人のために、究極のラストシーンを用意していてくれている。

アンドレイ・タルコフスキーの略歴

Andrei Arsenyevich Tarkovsky
1932.4.4〜1986.12.28

アンドレイ・タルコフスキーは、セルゲイ・エイゼンシュタイン以降、最も有名なソビエト映画監督と言われている。詩人アルセニー・タルコフスキーの息子として、ソビエト連邦ヴォルガ川流域ユリエヴェツ近郊ザブラジェで生まれる。モスクワで音楽とアラビア語を学んだ後、ソビエトフィルムスクールVGIKに入学。

1960年、アンドレイ・タルコフスキーは卒業制作となる短編 「ローラーとバイオリン」を監督。1962年、ウラジーミル・ボゴモーロフのベストセラー小説 「イワン」 を原作とした長編 「僕の村は戦場だった(Ivanovo detstvo)」 を監督し、ヴェネチア映画祭で金獅子賞を獲得し、世界的な評価を得た。

アンドレイ・タルコフスキーが1964〜66年にかけて撮影した「アンドレイ・ルブリョフ(Andrei Rublyov)」は、15世紀タタールの侵入を受けたロシア民族を描いているため、ソビエト当局に問題視され、67年のカンヌ映画祭ではプログラムから削除されてしまう。1969年のカンヌ映画祭では、批評家連盟賞を受賞し、1971年に上映が解禁され、1973年にはじめて西側で上映された、数奇な運命を持つ映画である。

「惑星ソラリス(solyaris)」 (1972年)は、西側では、キューブリックの「2001年」と比較され、絶賛される。(アンドレイ・タルコフスキー自身はこの比較を好ましく思ってはいなかったが...)。

「鏡(Zerkalo)」 (1975年)は、てアンドレイ・タルコフスキーの自叙伝的な記憶を描いているが、その中で、かなり革新的な(危険な...)プロットを埋込んでいるために、再び当局とのトラブルを招くことになる。

事故により最初の版を破壊してしまった「ストーカー(Stalker)」 (1979年)は劇的に減らされた予算で、見事なまでの表現を実現している。

そして「ノスタルジア(Nostalghia)」 (1983年)の後で西に亡命。

アンドレイ・タルコフスキーの最後のフィルム、「サクリファイス(Offret)」 (1986年)はスウェーデンで主にイングマール・ベルイマンの映画に携わっていたスタッフのもとで撮られ、カンヌ映画祭では、ほとんど前例のない4つ賞を受賞した。アンドレイ・タルコフスキーは、その年の年末に癌で死んだ。

アンドレイ・タルコフスキーの作品リスト

1960年 ローラーとバイオリン (Katok i skripka)
1962年 僕の村は戦場だった (Иваново детство)
ヴェネチア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞
アンドレイの受難(「アンドレイ・ルブリョフ」完全版)
1967年 アンドレイ・ルブリョフ (Андрей Рублёв)
1972年 惑星ソラリス (Солярис)
カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ
1975年 (Зеркало)
1979年 ストーカー (Сталкер)
1983年 ノスタルジア (Nostalghia)
★カンヌ国際映画祭監督賞
1986年
サクリファイス (Offret)
★カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ

 

ローラーとバイオリン

(1960年)アンドレイ・タルコフスキーが、映画大学の卒業制作として作った短編。バイオリンが得意な少年がとローラーを運転する労働者セルゲイの心の交流が...。

僕の村は戦場だった

(1962年)少年兵がドイツ軍の目をかいくぐりロシア軍の伝令の役を担っている。悲しい結末をどのように解決したらよいのだろうか...。ヴェネチア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞

アンドレイ・ルブリョフ

(1967年)15世紀初期に活躍したロシア史上最高といわれるイコン(聖像)画家、アンドレイ・ルブリョフの波乱に満ちた生涯を描いたドラマ。カンヌ国際映画祭国際批評家賞

惑星ソラリス

(1972年)惑星ソラリスを覆う理性ある有機体「海」に心理学者のクリスが接触を試みる。東京の高速道路が出てくる。未来のイメージか...。こちらも読んで。カンヌ国際映画祭パルム・ドール、審査員特別グランプリ、国際エヴァンジェリ映画委員会賞

(1975年)父親がいなくなり、母の手ひとつで育った少年時代、妻との愛と別離、息子と今の自分など、さまざまな記憶の断片を綴るアンドレイ・タルコフスキーの自伝的映画。

ストーカー

(1979年)不思議な領域「ゾーン」を、案内人(ストーカー)が3人の客を神秘へと導く。不思議なSF映画。低予算でもココまでのことができる!

ノスタルジア

(1983年)カンヌ国際映画祭パルム・ドール、監督賞、FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞

サクリファイス

(1986年)生命の樹を植える誕生日に終極の戦争が勃発。愛する人々を救うために自らを犠牲に捧げる。アンドレイ・タルコフスキーの遺作。カンヌ国際映画祭パルム・ドール、審査員特別グランプリ、FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞、全キリスト教会審査員賞

アンドレイ・タルコフスキーに関する書籍・CD

タルコフスキー日記―殉教録 ペレストロイカ以前、魂の荒野をさまよいながら時間や神に思いをめぐらし、独自に知の大系を紡いでいった天才映画監督の、あまりに人間的な叫びが、そして数々の傑作の苦難にみちた成立の過程が、いま原型のままここにある。
タルコフスキー日記 2 – 殉教録 アメリカ、イタリア、フランス-望郷の念に駆られながら、越境を重ね、晩年の傑作「ノスタルジア」「サクリファイス」に美しく結晶化する、稀有な映画作家の苦悩と逡巡、至福に満ちた魂の全記録。大きな反響を呼んだ「タルコフスキー日記」ここに完結。
Par Artemiev 「惑星ソラリス」「鏡」「ストーカー」から選曲されたサウンドトラックです。エドワルド・アルテミエフのシンセによる楽曲で、美しい「ストーカー」のテーマや、「惑星ソラ リス」での(バッハ/コラール前奏曲「われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ」BWV639)も収録しています。13曲76分収録
ル・シネマ~フィルム・ミュージック ノスタルジア-アンドレイ・タルコフスキーの追憶に-(武満徹)を収録

アンドレイ・タルコフスキー―映像の探求

ソ連からの亡命を余儀なくされつつも、自らの映像世界を探求し続けた映画監督、タルコフスキー。彼の全作品を詳細に分析し、その一貫したテーマを探り出す。
聖タルコフスキー―時のミラージュ 映画を、全く新しい自らの感性によって捉えた芸術家、「映像の詩人」アンドレイ・タルコフスキーの全容に迫る。「ヴィスコンティ」「エイリアン」に続く、若菜薫の偏愛的、映画論。
タルコフスキー―若き日、亡命、そして死 学生時代に作られたハードボイルド映画「殺人者」をはじめ、父への手紙、自殺の詩、絵画などの初公開資料とともに、妹や友人たちの肉声でつづる、世界を代表する映画作家タルコスフキーの知られざる生涯。
タルコフスキイの映画術 世紀を、国家を超えていまなお観客の魂を魅了する映像作家、タルコフスキイ。映画に対する情熱から、作劇、演出の実際にいたるまで、現在に遺されたソ連時代の肉声を集成し、「映像詩人」の原点に迫る映画論集。
アンドレイ・タルコフスキイ『鏡』の本 小説「白い日」と絵画「鏡」の撮影開始直前のシナリオ最終稿をもとに書かれた小説や映画に引用された詩、「鏡」シナリオ、作業ノートなどを収める。新たな映画言語の本質に迫る最高傑作の資料集成。


アンドレイ・タルコフスキーに関するサイト

アンドレイ・タルコフスキー映画祭 映画祭そのものは終わっているが、アンドレイ・タルコフスキーや映画に関する情報量が豊富。